〜薄暗い日々〜短編 オムニバス
やがて、そんな事も忘れた頃、ようやく、階のトイレが改修を終えた。

綺麗にリフォームされていたトイレ内に皆、大喜びだった。

今回はコールセンターのトイレで、徐々にこの古いビルのトイレを改修するという。

今日遅出の典子は、改修されたトイレの中で化粧を直していた。

「今日は早出にして貰えばよかったなあ…。」

しかも、外は雨が降っている。

こんな日は顧客からの問い合わせも多く、クレームのコールに当たる事もしばしばだ。

土日ともなると、旦那や男友達を使って、わざと脅しめいたクレームを入れてくる顧客もいるのだ。

しんどいなあと、鏡に向かって溜息をつくと、一番奥の個室から、人が出てきた。

新人の木下である。

この間の大クレームで、思わず大泣きした若いオペレーターだ。

「あら、お久しぶり〜。しばらく見なかっから、体調でも悪いのかと思ってたのよ。」

典子が話かけたが、木下は青い顔をしたまま、うつむいていた。

口紅を塗り終え、後ろを振り向いた時には、もう誰もいなかった。

忙しいコールセンターではまま、よくある事なので、典子はその時あまり気にしなかった。

上司からの周知を前に同僚が集まっている。

タイムカードを入れると、その中に急いで入った。

あらためてセンター内を見渡すと、トイレで会った、新人の木下が見当たらない。

「あれ?木下さん休み?」

「そういえば、しばらく見ないよね。調子悪いのかなあ。」

同僚達も周りを見渡す。


17時過ぎのコールセンターは凄まじい忙しさである。

ペットボトルの水で喉を潤す余裕もないくらい、息をつく暇もない。

そんな中、典子は当たりたくなかった顧客のコールを取ってしまった。

「ありがとうございます。ローマ化粧品でございます。」

「おまえの会社は何か〜!不良品を売り付けておいて、金を請求するのか〜!」

まず、出だしの言い方から腹が立つ。

もちろん声には出さないが、隣の同僚にしまったという顔を向ける。

同僚はコールの応対を受けながら軽く拳を上げ、頑張れという意思表示をした。
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