〜薄暗い日々〜短編 オムニバス
「お調べ致しますので、恐れいりますが、届いた請求書番号はお分かりいただけますか?」

「返品した分だよ!そっちでわかるだろ!不正に請求しやがって、おまえわからないの?馬鹿?」

若い女性なのだが、かなり言葉が汚い。

例の新人の木下がこの間やり込められた顧客である。

要注意人物として、この間の周知で伝えられた顧客だ。

あまりひどいと、セクハラ電話なども含まれるが、こういう顧客とは取引中止することもある。

この若いクレーマー顧客は、確かに不良品の返品は確かにあるのだが、他の商品での支払いがまだなのである。

どうやら、勢いに乗じてその分もチャラにしろという、とんでもない要求である。

「ご返品分の請求書は破棄して頂けますか?恐れいりますが、他のお買い上げ商品の請求書分はお支払いをお願いします。」

「はあ〜?不良品の請求書を叩きつけたのは、あんたがたじゃない!アタシは激しく傷ついたんだから!後の商品も払う気ないから!」

すでに支払い期日が過ぎている分もチャラにしようとしている顧客に、心底腹が立った。

PCの顧客データ画面を眺めながら、インカムでそんなやり取りをしていると、PCを覗き込む陰に気付いた。

スーパーバイザーの上司とばかり思っていたが、そのググッと画面に食い入るような横顔を見て、びっくりした。

(木下さん…!?)

結局、本社の担当者から連絡をさせることで、若いクレーマーはやっと、電話を置いた。

心配した上司も寄ってきたが、典子は思わず立ち上がって周囲を見渡した。

「どうしたの?松田さん?他に問題?」

「いえ、木下さんが覗きにきた気がしたものですから。」

そのスーパーバイザーは顔色を変えた。

「いや、もう何も無ければいいのよ。うん。」

明らかに動揺していたのだが、再び、凄まじいコールの嵐に対応に入った為、それ以上聞くことはなかった。


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