〜薄暗い日々〜短編 オムニバス
『地階の店』
大阪のミナミと言われる場所は、東京の新宿や渋谷のような不夜城の繁華街である。

暗くなれば、ホストやホステス、風俗の呼び込み等、盛んに行われるのはどこの地方都市にも見られる光景だ。

ちょっと古びたビルの地下に、セクキャバと言われる風俗店があった。

ここのオーナーは台湾人の女性で、同郷の夫に店を任せていた。

このマスターと言われる在日台湾人の夫は、情に厚く優しいメタボ男だったので、面接にくる女の子はほとんど採用してしまうらしく、妻であるオーナーからいつも怒られていた。

「また、ブスなおばさん入れたね!?」

「いいがな、いいがな、お客様の趣味は多様なんやから。」

そう言って今日も、ふくよかな30代の女性を店に入れた。

ここのお店の特徴は、主に売りは「40代までの人妻・熟女」である。

しかも昼間10時から開店していて、観光客や外回りのサラリーマン等が昼間よく利用する。

夜は一杯飲んだ勢いの仕事帰りの男性達がこぞって利用するのだ。

さて、お店の女の子…というより女性達は、だいたい常時昼夜合わせて10人くらいこの小さな店で働いている。

熟女だけではなく、中には、ちゃんと若い女の子も数人いるが、ほとんど、20代後半からの訳あり元主婦や現役も活躍中である。

もちろんこういう世界なので、履歴書などなく、突然辞めたり、飛び込み入店したりすることは、日常茶飯事である。

本名はほとんど明かさない源氏名を仲間内でも使い、寂しい男性の性の処理を毎日している。

だからこそ、いろいろな過去を持った女性達が集まる。

マキという源氏名を持っ30代前半の女性が古株で在籍している。

彼女も訳ありな元主婦でヤクザな男に騙され、借金を背負い込まされて、夫や子供達から絶縁されている。

何度も自殺未遂を起こし、死の淵をさ迷った。

現在も精神安定剤を常時携帯している。

その彼女が指名客を終えて、控室に帰ってきた。

ところが、うがいやビデ洗浄に向かわず、真っ先に控室奥の水屋から、お菓子の小さなパック皿に塩を盛り、今、客といた席の近くに置きに行ったのである。

「なんや〜!マキ〜!またか〜!」

マスターの大きな声が響く。

「マスター声大きいわ。お客に聞こえてしまうで。」
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