〜薄暗い日々〜短編 オムニバス
ホテルの部屋の中は、案の定、どこと無く暗い。

昭和のバブルの香が残る流行遅れの内装だ。

アメニティグッズも、あまり、良い物はない。

愛は携帯ですぐに、お店に電話を入れた。

「愛!遅いやないか!?どないした?」

電話からマスターの大きな声が響く。

お客にも聞こえたらしく、苦笑しながらこちらを見ている。

「だってマスター、ホテル無茶苦茶混んでいるんやもん。今からホテル真珠401号室、1時間入ります。」

愛は携帯でしゃべりながら、片手を顔の前に持って行き、指名客に謝った。

「お風呂にお湯を入れて来ますね。」

愛は電話を切るとと、風呂場所に向かった。

風呂場もまた、ガラス張りまる見えのひと昔前の造りである。

しかも自分で温度調節と湯量を確認しなければならない。

お湯と水を合わせて調節していると、お客が後ろから様子を見に来た。

「ごめんなさい〜。すぐ溜まるから待って…」

顔上げた時、ガラス張りの向こうで指名客がビールを飲みながらTVを見ている。

後ろを振り返ったが、誰もいない。嫌、いるわけがないのだ。

愛は気のせいだと自分にいい聞かせた。

私は霊感なんてないから、見える訳がないのだと、何回も言い聞かせた。

お湯が溜まったので、お客を急いで呼びに行き、服を脱いだ。

二人でお湯に浸かりながら、愛はキョロキョロしている。

自然と客に寄り添う形になる訳だから、指名客はちょっと機嫌がいい。

体を洗いあった後、客はバスタブ横の広いスペースに愛を座らせ、彼女の体を愛撫し始める。

ちょうど、彼女からガラスの向こうの部屋がよく見える恰好となる。

しばらくはサービスに集中していたが、客が愛の股に顔を埋めると、視界が開け、まる見えの部屋が気になり始めた。

付けっぱなしのTVに、ベットの上に乱雑に脱ぎ散らかした、衣服。

お客の舌が、ちょうど感じる部分に当たって一瞬目が逸れた。

その時、視界の片隅に何者かが過ぎったような気がした。

お客の頭を押さえながら、彼女は再び部屋に目を向けると、部屋の中を何者かが歩き回っているのが見えてしまった。

思わず開いていた股の両足に力が入ってしまう。

「痛いよ〜。愛ちゃんどうしたの〜?」

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