〜薄暗い日々〜短編 オムニバス
「ごめんなさい。」

愛は今見たものをなかった事にしようと、サービスに没頭した。

指名客は、今日の愛ちゃんは積極的だなあ、と思いながらも、そのサービスに感動し、やがて性欲は満たされ満足した。

シャワーを掛け合い、すべてを流し終わると、再びバスタブに浸かる。

浸かりながら、何気なくまた部屋を見た。

部屋を徘徊していた何者かは、もういなかった。

ホッとして風呂場を出ると、体を拭きながら二人でビールを飲む。

(よかった。怖いと思うから幻覚でも見たんだわ、きっと〜。)

そう思い込む事にして、時間の為、帰り支度を始めた。

フロントに帰りますコールを入れ、愛はまた、何気にガラス張りの風呂場を見てしまった。

ガラス張りの風呂場から、真っ赤なドレスを着た、髪の長い女が張り付くようにこちらを見ているのだ。

余りの恐怖の為、指名客に抱きついてしまった。


青い顔をして戻って来た愛をあのマキが迎えた。

「マキちゃん、来てくれたんだ。」

何だかホッとすると、愛は号泣した。

すべてを察していたかのように、マキは持っていた数珠で彼女の体を撫でやった。

「ごめん、ごめん。はっきりホテル名言うとけばよかった。あそこ、ホテル真珠は吹き溜まりみたいなところなんよ。大丈夫ついてきておらんから。」

愛はしばらく、マキの手を握っていた。

控え室に戻ってきた他の女の子も交ざって、愛が体験した話しを聞く。

「ああ、その娘は女の子には悪させんよ。」

マキはホテルの幽霊達に熟知しているようだ。

「社長は大丈夫かなあ〜?」

愛は、優しい指名客を心配した。

「社長は見えへんかったのやろ?大丈夫。それなら心配あらへん。あの幽霊は自分が見える男にしか悪させぇーへんから。しかも社長オッサンやし。この間のホストならヤバイけどな〜。」

「若い男に騙されたの?その幽霊〜?」

興味津々で、仕事を終えたさゆりが聞いた。

「詳しい事はわからへん。まあ、裏切った恋人でも捜しているんちゃうか〜?」

マキは淡々と話す。

結局、愛は今日は仕事を上がることにした。

マスターは相変わらず、非現実的な事には否定的だが、愛の精神状態を考えて、渋々帰す事に承諾した。

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