〜薄暗い日々〜短編 オムニバス
『モンスター・ユーザー』
ある化粧品メーカーのコールセンターに勤めている松田智美は、毎日違う人間から掛かってくるクレーム処理に、かなり参っいた。

掛かってくる内容と言えば、お宅の化粧水を使って、肌が被れたとか、返品した商品の請求書が届いたとか苦情の多くは、客の勘違いや言い掛かりが多い。

その為、ここのコールセンターでの離職率は非常に高く、研修を受けてしばらく現場に出ると、パートや派遣から来た人はすぐに辞めてしまう。

智美も頭に来る客に対応の度、退職の二文字を常に頭を浮かべてしまう。

しかし、時給がよく、休み等の自由がある程度あるので、主婦には有り難い職場なのだ。

それでも、本人の非ではない事を怒られたり、時にはオペレーターの人間性をわざとけなされたり、心が萎える事は度々である。

「神経細い人は続かないよね。」

同僚が笑いながら話す。

「個人情報の問題が無ければ、とっくに仕返しのイタ電してるよね〜。」

もちろん、冗談ではあるが、時々、殴りたくなるような顧客がいる事は確かだ。


朝礼で上司が個人情報の漏洩禁止の徹底を通達して来た。

元々、センター内は私物の持ち込みが禁止ではあるが、携帯電話を持ち込む者がこのところ続いたらしく、あえての通達らしい。

更にダミーか定かではないが、監視カメラがセンター内のあちこちに付けられた。

実際はTVで商品が紹介される度、受注が殺到するので、いちいち個人の情報をリークしている暇は、オペレーターにはない。

そんな繁忙期に入っているセンター内。

最近一人立ちした二十代の若いオペレーターが、受注画面を見ながら必死に謝っている。

どうやら、顧客を怒らせてしまったらしい。

彼女の後ろには上司が心配そうに立っている。

一時間くらい、若いオペレーターは顧客の嫌がらせに近い苦情に謝り続ける。

最終的に後ろにいた上司に電話を代わって貰っていた。

若いオペレーターは、すでに泣きじゃくっていた。

休憩中に同僚から聞いた話しでは、有名なモンスター・ユーザーで、今までいろいろなクレームをこれまで言ってきたことがあるらしい。

あまり酷いクレーマーだと、取引を中止することがあるのだが、何故か支払いは綺麗な為、取引中止にはならない顧客だという。

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