〜薄暗い日々〜短編 オムニバス
「新人さんのまだ、拙い知識に付け込んで、いろいろ説明させて、その対応が遅いだの、お前は馬鹿かだの、最終的はオペレーターを罵ることしかしなかったみたい。吉野係長が代わってようやく電話切ってくれたらしいけど、本当、そんな客に当たりたくないわよね〜。明日は我が身かも〜」

同僚は手を宙に振りながら、渋い顔をした。

確かにいろいろなクレーマーがいるが、電話の向こうとはいえ、初対面の人間を必要以上に言葉の暴力を加わるのは、そのユーザーの人間性を疑わざる負えない。

ただ、オペレーターは、その会社の顔にもなる為、顧客と喧嘩をするわけにはいかない。

理不尽な言い分も、素直に謝る以外ない。

心ないユーザーは更に高慢な態度に出る場合もある。

席に戻った典子は、インカムを装着しながら、深いため息をついた。


忙しく受注処理をしているコールセンター内を社員や上司が青い顔で、慌ただしく出て行った。

トイレから帰ってきた、隣の席の同僚が、切電中の入力作業をしている典子に耳打ちした。

「なんか、トイレの前で警察がたくさん来てるよ。だから、私、下の階のトイレに行った。」

「なんで警察が来てるの?」

「さあ?」

話はそこで終了し、忙しい受注コール作業に二人とも再び追われ、すっかり忘れてしまった。

やがて、就業時間を迎え帰りにお手洗いに寄ろうとした典子達は、立ち入り禁止のロープと数人の警察関係者と上司に阻まれ、一つ下の階のトイレに行った。

混雑の中、もちろんパートオペレーターの話題は、警察が来ている理由の憶測話で盛り上がった。


次の日からしばらく、典子達の使う階のトイレは使用禁止になった。

上司の話では、トイレ内の事故があって、改修するまで禁止になる事を説明されただけだった。

特に質問などなかったのでトイレの話はそれで終了し、皆、通常業務に戻った。
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