ボレロ 第二部 -新世界ー
ホールの入り口がひときわにぎやかになってきた。
宗の友人たちが次々に到着しては、思い思いに声をかけていく。
私はまだ到着していないお客さまを迎えるために残り、宗は彼らの輪に混じりホールへ入っていった。
「遅くなりました 今日はお招きありがとうございます」
「ジュンさん ユリさん ようこそ わぁ おふたりともステキ……よくお似合いよ」
客船で行った私たちの結婚式では、たくさんの方の力を借りた。
そのときの私は、自分の準備と招待客のみなさまを迎えることに精一杯で、警備面については一切関知していなかった。
警備や警護の手配を整えてくれたのは潤一郎さんで、近衛家の親族には警察関係機関に従事する者が多いので、任せてくださいと言われて安心していた。
「公的な立場のままでは迂闊に行動できないが 親族として披露宴に出席しているので何かのときは迅速に動きます
女性の警備員は警備会社の者ですから問題ありませんよ」
そのように告げられ、なんの疑問も持たずにいたが……
実際は、現職の警察関係者数人が私の警護についていた。
ジュンさんとユリさんもそうで、彼女たちが現職の婦人警官であると後に知らされて、それこそ驚いた。
警察官である事実にも驚いたが、二人の美しさが際立っていたことから、警察にこんなにも美しい人がいるのかとびっくりした。
決して華やかな装いではなかったのに、秘めた美しさというのは隠しても滲み出るもので、結婚式で私たちの近くに居合わせた男性は、誰しも二人の美しさに目をとめ、私へそっと
名前を聞いてきたものだ。
もうひとり、二人に劣らず美しい女性の刑事さんがいたが、今夜の会には出席できないと返事をもらっていた。
「うふっ 珠貴さんもステキです 今日は思いっきりオシャレをしようと思ってかなり力を入れてきたんですよ」
「みんなに 近衛家の 『12月の会』 に招待されたのよって言いたいのをぐっと我慢して、ジュンと二人で密かに盛り上がってました ドレスや靴のことを考えるだけで楽しくて ねっ」
「うん 夫にだけこっそり言いましたけど 目を見開いて驚いてました」
お二人はミセスで、ジュンさんにはお子さんもいらっしゃる。
若々しいと言うか年齢不詳というか、とにかく不思議な魅力があるお二人で、ここで立ち話をしている間も、そばを通る男性の視線が絶え間なく二人に降り注いでいる。
「水穂さんはお仕事ですか もう一度お会いしたかったのに残念だわ」
「詳しくは私たちもわかりませんけど 神崎さんと一緒に飛び回っているはずです
あの二人 仕事をしているときが一番楽しそうですね」
「そうそう なんだかんだ言いながら仲良さそうで パーティーより仕事の方が似合ってますから」
紫子さんの従兄弟である神崎さんも警察の方で、披露宴に出席していたが、彼もまた警備面で大変お世話になった方だった。
ジュンさんやユリさんと一緒に私の警護をしてくださった水穂さんは、公私共に神崎さんのパートナーだと聞いている。
「今夜は楽しんでくださいね」
「はい 水穂の分まで楽しませていただきます」
明るい声が響き、彼女たちはホールへと歩き出した。
アンシンメトリーデザインのドレスから綺麗な足がのぞいている。
脚線美にため息をつきつつ、ふと周囲を見ると、数人の男性が彼女たちの足元へ目を向けていた。
二人は、ここでも男性の視線を集めることになりそうだ。