ボレロ 第二部 -新世界ー


今回の 『十二月の会』 には、友人知人のほかに、近衛の両親と須藤の両親、それぞれの祖父母も

顔をそろえている。

大叔母さまのお友達もお招きしており、懐かしいお顔がそろって大叔母さまもご機嫌だった。

また、客船の披露宴で誕生したカップルも招待されていて、その中の一組は、先ほどお名前が出た神崎さんの弟さんの征矢さんと、お相手の女性は静夏ちゃんのお友達の小宮山雅さん。

お二人は婚約したばかりで、来年秋に結婚式が決まりましたと、幸せなお顔で知らせてくださった。



「珠貴ちゃん 見て」


「あら 可愛いじゃない 新しいドレスね」


「そうなの またパーティーを開いてね」



ドレスの裾を持ち、くるっとまわって見せた妹の紗妃は、新調したドレスが嬉しくて仕方がない様子だ。

大人の場である今夜の会に出席できるのは16歳からで、紗妃はかろうじて年齢に達しているため、ここにいるが、 いわゆる学齢期の子どもたちのために、保育ルームとは別にパーティー会場を設けていた。

これがことのほか好評で、将来を担うジュニアたちの交流の場になっていくだろうと嬉しい声も聞こえている。
  
当初の予想を遥かに超える規模となった 『12月の会』 は、多くの招待客を迎えて華やかに進んでいた。


お客さまの多くは披露宴にお招きした方で、私と宗へ 「仲良くお過ごしですか」 と声をかけてくださるが、 つづいて 「そろそろ天使がいらっしゃる頃ね」 「コウノトリはどうだろう」 と謎かけのような言葉が添えられる。

オメデタは? とはっきり口にされる方も少なくない。

そのたびに 「まだのようです」 と宗が答えていた。

おそらくこういった質問を受けるだろうと、ある程度の覚悟はあったものの、聞かれることの多さに辟易してきた。

かといって嫌な顔をすることもできず、笑みを絶やさず対応してきたつもりだった。

それでも、表情のどこかに翳りがあっただろう、母が心配顔で近づいてきた。



「言われるあなたも大変でしょうけれど 曇った顔をしてはだめよ 

今夜はあなたがホステスなの今夜だけではないわ これからずっとその役を務めていくのよ」


「そうね……でも……」


「大叔母さまは これまでずっとそういうことに耐えていらっしゃったのよ」 



母の言葉に胸が詰まった。

お子さんに恵まれなかった大叔母さまは、どれほど言われ続けてきたことか。

朗らかなお顔の向こうには、涙した顔も隠れているはずだ。

結婚して半年の私とは比べようもない苦労を重ねてこられたというのに、これしきのことで嘆いたことが恥ずかしくなった。

自分の至らなさを省みていると、宗の大きな声が聞こえてきた。



「子どもですか? そうですね 4・5人欲しいですね 子どもの数で親父に負けたくありませんから」


「ほぉ これは頼もしい 4・5人欲しいのなら急がなくてはな 年子でも5年はかかる」



年配の男性に囲まれて子どもの話になったのだろうが、宗の声はいつにも増して大きかった。



「双子か三つ子ならどうです 私も弟と双子ですから可能性はありますよ」


「おぉ なるほど 期待してるよ」



宗の返事を聞いて、男性陣の周囲からわぁっと歓声が上がった。

頑張れよ、などとあからさまな声もあり、聞いている私は赤面した。

彼らから身を隠すように背を向けたのに、こともあろうか 「珠貴」 と宗が呼んだ。

仕方なく顔を向けると、私に向かって大きく手を振っている。

私の顔は、さらに赤味を増してきた。



「宗一郎さん お優しいわね あなたを守るためにおっしゃったのよ」


「わかるけど 双子や三つ子は言いすぎよ 

いくら彼がそうだからといっても、私たちもそうなるとは限らないのよ」


「誰も本気にしていませんよ 宗一郎さんがおっしゃったこともすぐに忘れてしまうでしょう

宗一郎さんが盾になって 周囲の声からあなたを守ってくださったのよ」



良い方にめぐり合ったわね、とつづいた母の声は心なしか湿っていた。



「でも もしかすると もしかするかもしれないわよ」


「お母さままで そんなことを言うの?」


「あら 期待するくらいいいでしょう 楽しみになってきたわね」



母の湿った声は、弾む声に変わっていた。

赤ちゃんが二人なんて、想像するだけでワクワクするわと、まるでそうなったかのように口にして楽しんでいる。

宗の優しさを感じながら、私も少しだけ未来の世界を思い浮かべた。
 




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