星月夜
『そこ外? 雑音がしてしゃべりづらい。早く家に帰ってくれる?』
「無理。あと10分は歩く」
『瞬間移動したら?』
「いや、無理だから。私普通の人間」
『分からないよ? 普通の人間に見えて実は魔法使いの末裔とかかもしれない』
「だったら面白いけど、親戚も親もあいにく普通の人間だったよ」
『正体隠してただけかもよ』
「何のために?」
『自分の身を守るためだよ。そういうのバレたら、変な施設連れていかれて人体実験されるかもしれないし』
「おお、それはまずいね。隠す理由になる」
高校の頃よりは穏やかになったものの、神経質で変な話をするところは今も変わらない。
知輝のことを変人扱いし距離を置く子もいたけど、私は彼が好きだ。まあ、たまにめんどくさいけど。
知輝もそう思ってくれているみたいで、こうして今も時々電話をくれるし、都合が合えば二人でご飯やカラオケにも行ったりする。
知輝も私と同じくピアノを専攻していたけど、彼は弾くことより聴くことが好きだった。音の変化にも敏感だった。
そういう傾向を意識したのか、音大卒業後知輝は調律師になった。
家に着くまでのわずかな間、私達は電話でしゃべった。いつもの会話。
『彼氏とデートの帰り道?』
「映画観てきた。今アメリカで話題の……。面白かったよ」
『ああ、アレね』
「知輝も観た?」
『観てないけど、曲は知ってる。アレ、クラシック出てくるでしょ』
「ああ、うん。そういえば出てたね」
そこはさして興味なかったけど、みたいな口ぶりで答えた。