星月夜


 ーーカーテン越しに透ける太陽の光で目が覚めた。仕事行かないと。でも、なんかそんな気分じゃない……。


 また、あの日の夢を見てしまった。高校の卒業式。

 人生でもっともやり残したことの多かった大切な日。私にとって重要だった瞬間。二度と戻らない1日。


 物思いにふけっているヒマもなく、忙しない朝を迎える。

「今日は残業頼まれそうだなぁ……。適当に間食できそうな物買ってくか」

 勤務先まで徒歩20分ほどの道のり。ビル群に囲まれた一人暮らしのアパートを出て、コンビニまで早歩きをする。

 去年から働き始めた小さな製菓工場。そこの事務員として正社員で雇ってもらえたけど、いつまで続くか分からない。

 事務員。工場内作業。受付。レストランのウェイター。今まで何度か転職したものの、これといった職に定まらない。

 フラフラしてる根無し草。

 今の仕事は、不満もなければ満足もなく、やりがいとかももちろんなく、一人暮らしでさえなければいつ辞めてもいいやと思ったことだろう。

 食べていくため、とりあえず働くしかないからやってるだけ。

< 2 / 75 >

この作品をシェア

pagetop