星月夜
勢いよく体を起こし、ベッドから飛び出した。
「やっと起きた〜。ご飯、できてるわよ」
「お母さん……?」
どうしているの? 5年前に出て行ったよね?
「夢……? そうだ、お母さん、私の頬つねって?」
「何言ってるの?」
「いいから!」
変な顔をするお母さんに、容赦なく頬をつねられる。
「痛いー! ストップ!」
「目、覚めた?」
「うん……」
「お父さんももう起きてるわよ。仕事行く前に顔見せてあげなさいね。最近練習漬けで、ろくに挨拶もしてなかったでしょ?」
「う、うん……。分かったよ」
「まあ。やけに素直ね」
ふふふと笑い、お母さんはダイニングに戻っていった。記憶の中でしか見られなかった笑顔。
どういうこと? これは一体……。
かつて私がお父さんやお母さんと住んでいた家で、ここはまさに私の部屋だった場所。
全身鏡を見てさらに驚いた。
「高校生に戻ってる!!」
そう言うしかなかった。顔も幼いしノーメイク。まだ一度も染めたことがない黒い髪。今は毎日のように化粧をして会社に行っているからなおさら差が分かる。
カレンダーを見るとキッチリ9年前の日付けだった。高校1年生の4月。
「ちょ、ちょ、どうなってんの!?」
どういうわけか分からないけど、私の意識は過去の自分に移動してしまった。
夢見月(終)