星月夜
子供の頃からピアノを弾いていた。音楽教室の発表会にも参加し、ピアノのうまい男の子を何度か目にした。ピアノを弾く男の子にもさして珍しさは感じなかった。
けれど、秀星だけは違った。
入学式の後、初めて教室で彼を見た時、彼の放つ雰囲気にいい意味で鳥肌が立ち、強く惹きつけられた。
こんな男子、初めて見るーー!
秀星は、音楽科の生徒でもっとも異彩を放っていた。全校生徒の中でも特に存在感が濃かった。
そんな人と同じ音楽科にいるだなんて、すぐには信じられなかった。
線が細く、繊細な指先。黙っているだけで周囲を圧倒するカリスマ性。なにもかもが別世界の人。
そう思っていたら、中身は正反対。
同じ音楽科の男子と話している秀星は口を開くと明るくて冗談なんかも口にしたりする、とてもフレンドリーな性格だった。
そんな秀星に惹かれたのは他の音楽科の女子も同じで、みんなが彼の周りに集まった。楽しげな会話。音楽の話題。授業の話。
和気あいあいとする音楽科の教室で自然とできる仲良しの輪。
その中にいながら、私だけがなんとなく彼と言葉を交わせないでいた。
過去と同じだ。〝やり直し〟の最中でもそれは変わらないことらしい。