星月夜
記憶の中の秀星より幼い彼を見て、なんとも言えない気持ちが込み上げてきた。嬉しいような悲しいような。ううん、やっぱり嬉しい。その一言に尽きる。
25歳の私は、どういうわけかこの時代に戻ってしまった……。
毎日欠かさずはめていたお母さんの指輪は指から消えていた。それもそうか。時間が戻ったわけだし。
友達と楽しそうに話す秀星を遠目に見つめながら、苦い過去を思い出した。
高3の12月、秀星と大きなケンカをした。ケンカというより私が一方的に怒って彼を困らせたという方が正しい。
その発端はお父さんのリストラだった。
そのせいで有名国立音大への進学を諦めなければならなくなった。そのままの成績とピアノの技術を保てば確実に合格できる、そう教師達から言われていた最中のことだった。
音楽の勉強はお金がかかるからそれも仕方ない。理解はできても納得はできなかった。ピアノを犠牲にしてバイトする時間すら惜しかったし、たとえ働いたって今からでは音大に行けるほどのお金は貯められないだろう。
音大へ行き、腕を磨き、将来はピアニストになりたい。その夢のため、子供の頃はもちろん、高校の3年間も一切妥協しなかった。
時間があればピアノを弾き、週5日のペースでピアノや聴音のレッスンに通い、声楽の勉強もした。コンクールと名のつくものはなるべく参加し入賞を狙った。心折れそうになる厳しいレッスンにも耐えた。