星月夜
音大に進学できないことが分かった時、秀星は励ましの言葉をかけてきた。
「月海がんばってたのに……。そういうの無駄にしたくない。音大行ける方法、他にないのかな」
いつもの秀星。親身に私のことを考えてくれる。
いつもは大好きだったその優しさが、その時ばかりは腹が立った。自分は進学断念の危機がないからそうやって余裕ぶって人の心配ができるんだ、そう思えてならなかった。
「分かったようなこと言わないで! 自分はいいよね、音大行けるんだもん!」
「……月海」
「秀星には分からないよ。音大、不合格になればいいんだ!」
「……!!」
「そしたら嫌でも分かるんじゃない!?」
これは、何に対しての怒り?
実力はあるのにそれ以上先には行けない。悔しくて、うらめしくて、悲しくて、むなしくて、もっとも親しかった秀星にもっとも言ってはいけないことを言ってしまった。
今まで一緒に学んできた秀星はどんどん新しい扉を開けて進化していく。夢を切断された私は、そんな光景を指をくわえて見ていなければならないというのか。
分かりきった未来を想像し、悲観が募る。変えられない現実に苦々しい吐き気がした。
翌日、秀星は私に挨拶をしてこようとしたけど、迷ったように視線をさまよわせ結局声をかけてくることはなかった。
私も私で、秀星の存在が眼中にないみたいな顔で毎日をやりすごした。
そんな日々が何日か過ぎて冬休みが終わり、3学期になると気持ちがだいぶ落ち着いていた。
進学は諦めて今後のことを考えなくてはならなかったし、秀星に言った言葉に罪悪感を覚え始めていた。