星月夜

 つまらない大人になったな……。そう思う。

 25歳。高校を卒業して7年が経ってしまった。
 
 無限にあると思っていた時間も、いつの間にか虫に食われたりんごの実みたく削り取られて芯だけの状態になった。

 焦らなければならないはずなのに、焦れない。

 時間を巻き戻したい。そんな非現実的なことばかり考えてしまう。

 特に、〝あの日〟の夢を見てしまった今日みたいな日は……。


 わかってる。もう、あの頃は戻らない。

 今を生きるしかない。


 右手の薬指にはめた指輪を見つめ、気合いを入れた。

 この指輪はお母さんが結婚前から宝物にしていた物で、お母さんが大好きなムーンストーンがついている。シンプルな作りだけどそれすら指輪の綺麗さを増しているように思う。

 負けないよ。

 誰に言うでもなく指輪に意思を込めると、ムーンストーンがわずかに光った。あたたかく励ましてくれる、そんな光り方で。

< 3 / 75 >

この作品をシェア

pagetop