星月夜

 下の名前を呼び捨てにされてビックリすると同時に、ドキドキした。あの頃と全く同じセリフだ。

 昔から男女関係なくそう呼ばれてきたのに、なんでだろう。秀星が呼ぶと、聞き慣れた自分の名前が違う音に聞こえる……。当時から、彼に呼ばれるたびドキドキしてたっけ。

「秀星、人気者だから。今までなんとなく絡みづらかったかも」

 照れていることに気付かれたくなくて、私も彼の下の名前を呼び捨てにした。そしたらますます鼓動が速くなった。

「なんだよ、それ」

 秀星は笑った。

「普通だよ。これからはどんどん絡んで?」

「そういうキャラだったんだ」

「どんなキャラだと思ってたの?」

「クールで無慈悲。自分より下の人間はゴミクズとか思ってそうな孤高の音楽家」

「ひっで! 月海に与える第一印象最悪ってことじゃんっ」

「ウソ。ちょっと大げさに言ってみた」

 記憶と全く同じやりとりを繰り返す。意識しなくても言葉が勝手に出てくる。

 改めて実感した。本当にここは過去なのだと……。


「へえ。月海には俺がそういう風に見えてたんだ。ふーん」

 意味ありげな表情で、秀星は探るように私の顔を覗き込む。頬が熱くなるので逃げるように目をそらした。

 投映が始まる。座席がゆっくり後ろに倒れ、辺りはゆっくり暗くなった。

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