星月夜

 プラネタリウムで話した日以来、教室でも秀星と話すことが増えた。

 彼のことを気安く秀星と呼んだし、彼も私のことを親しみを込めた様子で「月海」と呼んでくれた。


「月海! 次、コールユーブンゲン。移動しよ」

「うん!」

 真新しい教科書を持って、音楽棟に移動する。音楽棟とは、音楽科の生徒のための施設がそろった別校舎のことだ。

 現代文や数学などの通常授業は普通科と同じ校舎で、音楽に関する授業は音楽棟で受ける。

 音楽科の生徒は、1日一回は必ず音楽棟に移動しなければならなかった。

 そんな時、秀星はいつも私を呼びにきた。そばにいた美羽と一緒に3人で音楽棟に移動した。

 秀星のピアノ姿はきれいでかっこよくて、見とれた。

 他にもピアノがうまい人はいたし、美羽ももちろん上手だった。それでも、無意識のうちに秀星の演奏だけを拾って心の中で歌ってしまう。

 音楽棟には、ピアノを練習するための個室部屋が10部屋以上あった。そこで2時間ほど練習する時も、秀星の演奏はすぐに分かった。別々の部屋にいるのに。

 昔は自覚していていなかったけど、この頃からすでに私は秀星に恋をしていた。
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