星月夜
5月が始まってすぐの昼休み、美羽が深刻な顔で相談をしてきた。秀星と私、そして知輝を含めた四人で教室で昼食を食べていた時だ。
「彼氏が最近冷たい……」
「宇宙人と交信してるんじゃないの? そういう時って周りの声聞こえないみたいだし」
「ヴェートーベンは黙ってて。真面目に悩んでるの」
「大真面目なんだけど」
「…………」
すでにヴェートーベンとあだ名の付いていた知輝はそれ以上の発言をやめ、冷静な面持ちで自分のイチジクソーダを口にした。
「でも、この前お土産渡した時は仲良さそうにしてたよね」
私は言った。先の展開を知っていても知らないフリをしなければならない、そんな気がして。
「うーん……。でも、思えばあの時からちょっとよそよそしかったかも……」
「……部活が忙しいんじゃない? 野球部なんだろ? 1年って何かと大変だって聞くし」
秀星はそう言い美羽をなだめたが美羽の不安は消えないようだった。
美羽の彼氏はこの時点でもう同じ学校の女子と仲良くなり始めていて、別の高校に通う美羽のことを相手にしなくなっていた。
うちの音楽科の生徒は放課後週2日、学校の音楽教師にピアノのレッスンを受けなければならない。ピアノ以外にも聴音や声楽などのレッスンもしている私達は、放課後遊べる時間がほとんどなかった。
そのせいで学校が離れた彼氏と会える日が減り、彼からの誘いも断るしかないと美羽は申し訳なさそうに言っていた。
同じ学校ならまだよかったかもしれないけど、美羽と彼氏は違う学校。会えない美羽に愛想を尽かし彼氏の心は離れていった。