星月夜
高校卒業を目前にお父さんの勤めていた会社が倒産し、裕福だった我が家の生活レベルは一気に下がった。
現実の厳しさを嘆くヒマもなく、お父さんとお母さんは仕事を見つけ働いた。
お父さんはそれまで全く経験のなかった土木作業の仕事に採用され、毎日遅くまで汗水流して働いた。お母さんもお弁当屋のパートとして昼勤で接客の仕事を始めた。
そこから、何かが変わってしまった。
20歳の頃、お母さんは家を出て行った。私のせいでーー。
昔から行きたいと願っていた音大(音楽大学)への進学を諦めざるを得なくなった私は、社会人にもなれず学生にもなれない中途半端な時を数年も費やしてしまった。いわゆるニート。
家計が苦しいのにそんな立場でいるなんて、普通の親なら怒って『働け!』と言ってくるのだろうが、お父さんは注意や干渉など、私にとって不都合な発言は全くしてこなかった。
むしろ、そういうの全てを諦め許すみたいに、しょっちゅうおこづかいをくれた。
「ごめんな。父さんのせいでつらい思いをさせて……。本当なら、月海(つきみ)は今頃大学で音楽を勉強していたはずなのに」
父は、私を見ると謝ってばかりいる。
「……別に。音楽なんてもうどうだっていいし」