星月夜

 恋多き女というのも結果論であって、美羽はこの失恋を長く引きずった。高3で彼氏ができるまで。

 それだけじゃない。この失恋の後、美羽は中間テストのピアノ実技で散々な結果を残した。ひいき目で見ても褒めるところが見つけられない演奏。美羽は苦しみを吐き出すように雑音を弾き鳴らした。

 それが分かっているのにこのまま見過ごすことはできない。

 どうにかして美羽の失恋を回避できるよう、色々やった。美羽に彼氏と会うよう遠回しな言い方で言ったりもした。でも、結果はこれ。

 このままでは二人は別れてしまう!

 放課後、音楽棟に残っていた知輝を見つけた。周囲に誰もいないことを確認すると、

「ちょっとこっち来て!」

 知輝の腕を引いてピアノの個人練習室に入り、思い切って尋ねた。

「ねえ、知輝。私が未来から過去にやってきたって言ったら、信じる……?」

「……え?」

「信じるわけないよね、こんな話。ごめん。忘れて?」

「…………」

 何を考えているのか分からない静かな瞳でこっちを見つめ、知輝は小さくうなずいた。

「信じるの? 信じてくれるの!?」

「そう期待して話したんじゃないの?」

 その通りだった。

 オカルトや宇宙に関する不思議な話が好きな知輝なら、私の身に起きた現象も信じてくれるのではと期待していた。

 でも、信じてもらえないだろうという不安も少しはあった。口では変なことを言いつつ実は常識人でしたということもあるかもしれないからだ。
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