星月夜

 25歳の美羽は結婚していて仕事も順調で幸せそうだった。

 私の頭の中を見透かしたように、知輝は言った。

「歴史を勝手に書き換えちゃダメでしょ。自分のならともかく、友達のをさ」

「それはそうかもしれないけど……」

 知輝の言うことは正しいかもしれないけど、私はただ美羽に悲しんでほしくないだけなのに……。

「今の話は聞かなかったことにしとく。タイムスリップの理由が分かったら教えて?」

「ちょっ、待っ……」

「じゃ」

 カバンを手に、知輝は練習室を出て行った。

「知輝のバカ! 変人! 薄情者っ!」

 人の歴史に手を出すな、そういうこと?

 そうかもしれないけど、やっぱりこのまま放置するなんて無理だ……。

 知輝では話にならない。

 私は秀星の元に向かった。今はレッスンで先生のマンションにいるはずだ。

 私達高校の音楽科の教師は、個別レッスン用に学校が買ったマンションの一室を使いローテーションで生徒のレッスンをしていた。今日は秀星がそこでピアノの指導を受けている日。
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