星月夜
秀星の予想通り、美羽の彼氏はまだ野球部の練習でグラウンドにいた。端から見ていても砂埃のにおいがした。
「普段あまり音楽室でしない匂いだね」
「そうだな」
他校のフェンス越しに、秀星と肩を並べて練習を見守る。
「美羽の彼氏、いる?」
「えーっとね、あ、いた! あの、髪短い人!」
「あの人が……。4番か。すごいな」
プリクラでも何度か見ていたので、今でも覚えている。
練習が終わるのを待って話をするつもりだったのに、
「あれって……」
美羽の彼氏に近づく女子の姿が目に入り、嫌な意味でドキッとした。この学校の制服を着たその子は、美羽の彼氏に頭をなでられ嬉しそうにしていた。
「ウソ……」
その頃からもう、心変わりは始まっていた……?
秀星も同じことを思ったらしく、ぎこちない様子でこっちを見つめてきた。
「最近美羽が悩んでたのって、あれが原因だよな?」
「そうだね、それしかないよ……」
美羽にそっけないのも、メールの返事が遅いのも、電話に出ない日が多くなったのも、そういうこと……。
「話、しにいくか…?」
「やめとく……」
ここで何か言いに行っても、最悪美羽の指示でここに来たと思われかねない。そうでなくても、外野が何か言ったら彼氏は美羽に嫌な印象しか残さないだろう。