星月夜
「それでもありがとう」
「月海……」
満面の笑みで秀星を見ると、秀星は照れたように目を見開き、すぐにそらした。そして、ボソッと言った。
「……今日の放課後、レッスンとかなければ音楽棟寄ってかない?」
「寄ってく…! 秀星のピアノ聴きたい」
「月海のピアノも聴かせてよ」
「まだ完成度低いからダメ」
「それでも聴きたい」
突っ込んでくる秀星にドキッとした。
昔もこうして音楽棟へ寄ることは何度かあり、それは日常だった。でも、私がこう言うと秀星は必ず「分かった。完成まで待つ」と言った。
「下手な演奏、聴かれたくないよ」
「初めはみんな下手だろ」
「そうかもしれないけど、上手な秀星にはよけい聴かせられない。雑音でしかないし」
「もう無駄。月海の練習する音、練習時間中に何度も聴いてるし」
「……!!」
初めて言われた。そんなこと。
「月海の音が優先的に聴こえるの。不思議だよな。人の音聴くクセは昔からなんだけど、最近は月海の曲ばかり耳が拾う。こんなの初めて」
そうだったの? 知らなかった。
私だけが秀星の演奏を聴いているのだとばかり思ってた。
あの頃からそうだった? それとも、私の意識が過去へ戻ったことで起きる現象も変わってきた?