星月夜

 よほどこわばった顔をしていたのだろう。知輝は私を気遣いベンチに座るよう促すと、紙パックの抹茶ラテをくれた。食堂で売ってるやつだ。

「ありがとう。これ飲みたい気分だったんだ。お金後で返すね」

「いらない。貴重な体験語ってくれたお礼」

 私の隣にそっと腰を下ろし、知輝は好奇心に満ちた目でこっちを見つめた。

「そのこと、俺も人知れず考えてたんだけどさ」

「何? 聞かせて」

「タイムスリップにはアイテムが必要不可欠でしょ。何でもそう。ファンタジー小説にもアニメにも、必ずと言っていいほどタイムスリップの際には何かしらのアイテムが使われてる。古典的な所で言うとタイムマシーンとかね」

「タイムマシーンか……。そんな物持った覚えがないよ。それに、厳密に言えばタイムスリップと言えるのかどうか……」

「ややこしいから今はとりあえずその現象をタイムスリップと呼ぶことにしよう。マシーンとは限らないよ? 何か、いつも身につけていた物とか常に部屋に置いてた物とかがタイムスリップの引き金になってることもある。と、俺は考える」

 ……!!

 肌が粟立つ。

「心当たりあるよ。ひとつだけ」

「それだね、きっと。そのアイテムって何?」

 知輝は興味津々に身を乗り出す。こんなに楽しそうな知輝を見るのは初めてだ。本気で私の話を信じてくれているらしい。

 って、今はそんなノンキなこと言っていられない。

「お母さんの指輪……」

 家を出て行った時に置いていった、あの……!
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