星月夜
なんて贅沢な時間なんだろう。音楽は元々好きだけど、それが好きな人のピアノとなると別格だ。心地良さを通り越し、秀星の音に酔いしれる。
昔も秀星と過ごす時間が好きだったけど、今に比べたら軽い気持ちだったように思う。
7分程の演奏が終わった。
秀星はそっと鍵盤から手を離し、まっすぐ私を見つめた。
「ごめんな。知輝と月海が仲良さそうにしてるとこ見て、正直面白くなかった……」
「!」
「何でだろな。よく分かんないけど」
「何だろうね、はは……」
うまく答えられなかった。それってヤキモチ……?
色んな意味でドキドキした。昔と同じ秀星なのに、時々知らない顔を見せられる。この時代に戻ってきたことで色んなことが変わってる。大きな行動はしていないはずなのに。
「……あ、虹」
ピアノから離れると窓の外を見て、秀星は言った。
「綺麗だな。帰りは傘いらなさそうだ」
「ホントだ。虹、久しぶりかも。綺麗」
朝から降り続けていた雨はやみ、雲間に太陽の光が射していた。
何とかなるよ。誰かにそう言われた気がした。
窓辺に立ち、二人そろってしばらく虹を眺めた。