星月夜

 なんて贅沢な時間なんだろう。音楽は元々好きだけど、それが好きな人のピアノとなると別格だ。心地良さを通り越し、秀星の音に酔いしれる。

 昔も秀星と過ごす時間が好きだったけど、今に比べたら軽い気持ちだったように思う。

 7分程の演奏が終わった。

 秀星はそっと鍵盤から手を離し、まっすぐ私を見つめた。

「ごめんな。知輝と月海が仲良さそうにしてるとこ見て、正直面白くなかった……」

「!」

「何でだろな。よく分かんないけど」

「何だろうね、はは……」

 うまく答えられなかった。それってヤキモチ……?

 色んな意味でドキドキした。昔と同じ秀星なのに、時々知らない顔を見せられる。この時代に戻ってきたことで色んなことが変わってる。大きな行動はしていないはずなのに。

「……あ、虹」

 ピアノから離れると窓の外を見て、秀星は言った。

「綺麗だな。帰りは傘いらなさそうだ」

「ホントだ。虹、久しぶりかも。綺麗」

 朝から降り続けていた雨はやみ、雲間に太陽の光が射していた。

 何とかなるよ。誰かにそう言われた気がした。

 窓辺に立ち、二人そろってしばらく虹を眺めた。
< 57 / 75 >

この作品をシェア

pagetop