星月夜

「お疲れ!」

 仕事を終え会社の玄関を出ると、悟(さとし)が待っていた。明るい笑顔と共に、カフェでテイクアウトしたミルクティーを差し出してくれる。

「わざわざ待っててくれたの? 今日会う日じゃなかったのに」

「月海の顔見たくなってさ。飯、まだだろ?」

「うん、何食べよっか」

「月海の好きなのでいいよ。何でも食えそう」

「じゃあ、パスタがいいな! 最近出来たとこなんだけど、会社の人がおいしいって言ってたんだ」

「じゃ、そこで決まりな」

 手をつなぎ、私達は歩いた。


 悟は製粉会社の営業をしている。私の働く製菓工場との取り引きでよくうちの会社に来ていた。

 事務員をしている私と営業の悟は、仕事上の関わりはなかったけど、仕事終わりの悟は事務室を通り外へ出て行った。そういう時によく顔を合わせたので、軽く雑談するほどには接触があった。

 営業をしているだけあって、悟は気さくで気が利く。自分も忙しいだろうに、残業中などにわざわざ声をかけてくれた。

 仕事をはじめて間もなかったその頃、会社の人間関係についていくのも必死な中、仕事を覚えるのも精一杯だった。
 
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