星月夜

「いつ?」

「先月よ。月海が高校入学してすぐの頃に」

 それって、私がこの時代に戻ってきた頃だ。

「おかしいわよね。衝撃も与えず大切に保管してたのに。そんなことってあるのね」

 残念そうにため息をつきつつ、お母さんはそこまで深刻に考えてはいないようだ。でも、私は違った。

「割れててもいいから見せて!?」

「いいけど、見たって何も……」

「どこにある?」

「化粧台の引き出しの中よ」

「ありがと!」

 強引だったかもしれないけど引けなかった。お母さん、私の様子にビックリしてた。

 私の意識が過去に戻ったのがお母さんの指輪の力の影響だとしたら、ムーンストーンが割れたのは私のせい……。きっとものすごい負担をかけてしまったんだ。

 お父さんとお母さんの寝室にある化粧台。

 電気をつけるのも忘れ引き出しを勢いよく開けると、勢いがよすぎてスムーズに開けられなかった。いったん引っかかった引き出しを、今度はじれったい気持ちで慎重に開ける。

「あった……」

 新品同様に綺麗に保たれた白いリングケース。そっと開けるとその中に、粉々に割れたムーンストーンと指輪が入っていた。元の形が分からない。

「どうして……?」

 暑くもないのに、こめかみに冷や汗が流れた。心臓が嫌な感じで高鳴る。

 指輪だ。この指輪が私をこの時代に戻したんだ。でも、なぜ?
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