星月夜
幸せを実感するほど、自分の身に起きた現象への謎が深まる。なぜ私は過去へ戻れたのだろう?
分からないからなおさら、また〝本来の人生〟に戻されてしまうのではないかとこわくなることがある。今この瞬間が夢なのではないかって。本当の私は意識がないまま眠り続けていて、これはその夢の中なんじゃないかって。
秀星の後に続いて部屋を出ようとすると、背後で男の声がした。
「よかったな。お前の人生はハッピーエンド確定だ。そのまま安心して生きろ」
黒髪でスーツ姿。美しい顔立ちの長身男性がそこにいた。
「ちょ、あなたいったいどこから…!? 窓には鍵がかかってるのにっ」
「いつの時代もそう。人間は我を見て同じ反応をする。面白いな。くっくっく」
見た目こそかっこいいがひたすら怪しい。でも、なぜか彼に対し恐怖心や警戒心は湧かなかった。どう見ても人間離れしている雰囲気。
「あの、違ったらすみませんが、もしかして母が持ってた指輪とあなたには何か関係が……?」
「ふふっ、賢い女は好きだぞ。
我の名はミコト。命を司る神だ。お前の母親が持っていた指輪はかつて命守(みことのもり)神社という場所で販売されていたお守りの中に封入された特殊な物。命守神社のお守りはどれも効能があると有名だし、お前の父親は愛した女のために縁結びのお守りの中から指輪を取り出して彼女に渡したのだ。そんなことをする人間は前代未聞だがな」
「ミコトさんはその神社の守り神的な存在ってことですか?」
「まあ、そうなるな」