御曹司による贅沢な溺愛~純真秘書の正しい可愛がり方~
「えーっと……⁉︎」
なぜか美月よりも良輔が焦っていた。
二階を見上げたまま、ピクリとも動かない美月の肩を掴んで、強引に反対側を向かせた。
「今のはナシ……ってことで!」
ほんの一瞬で、自分たち以外は二階の彼らの存在に気づかなかったようだ。
夢ということにしたいが、良輔もハッキリ見たのである。
ああこれは現実なんだなと、美月はボンヤリと考えていた。
「ナシにはならないと思いますけど……お気遣いありがとうございます……」
なんとか絞り出した声は震えていた。
喉が締め付けられて、心臓がキリキリと痛い。
「いや、マジで。あなたを口説いておいてなんだけど、雪成はああ見えて、絶対浮気とかする奴じゃないから……何かの間違いだと思う。それにその、菜穂はアメリカ在住だし、キスとか挨拶みたいなものだし……ってあー、なんか喋れば喋るほど墓穴掘ってる気がしてきた……」
良輔は困ったように髪をかき回す。
(浮気……? 違う。あれは浮気なんかじゃない。)