御曹司による贅沢な溺愛~純真秘書の正しい可愛がり方~
「お前は笑った方がいい」
その一言に、ドキンと心臓が跳ねる。
泣いているところを見られたわけじゃない。美月の涙は通り雨が流してしまったから。
それでも彼は、自分から涙の匂いを感じ取ったというのだろうか。
「雪成さん……」
優しい……。本当にこの人は、優しい。
(だから段々、自分が不甲斐なくて、申し訳なくなるんだ……。)
「美月?」
泣きそうになるのをこらえると、雪成が怪訝そうに眉をひそめる。
慌てて笑顔を作り、首を振った。
「もう大丈夫です。だから雪成さんも拭いてください」
「……ああ」
そして菜穂が肩にかけていったタオルで、雪成は雑に髪を拭き、ハジメに呼ばれて席を立った。
「すぐ戻るからそこにいろよ」
と、言い残してーー。