御曹司による贅沢な溺愛~純真秘書の正しい可愛がり方~
上京して三ヶ月の美月はまだ東京の地理がよくわからない。車となれば余計である。
ただ明らかに閑静な高級住宅地に車が入っていくのを見て、菜穂の家もまたかなりの資産家なのだろうという想像がついた。
そして当の菜穂本人は、頬杖をついて窓の外を眺めていて、美月に一瞥も寄越さなかった。
(変に緊張してしまったけど……自意識過剰だったのかな。)
内心、ホッと胸をなでおろす。
「菜穂……着いたよ」
運転席のハジメがハンドルを切りながら後ろに声をかける。
「……菜穂?」
広大な純和風のお屋敷の前に停車して、改めて振り返ったハジメが、怪訝そうに眉をひそめる。
「菜穂、どうしたの?」
眠っているのだろうか。
菜穂はうつむいたままピクリとも動かない。