御曹司による贅沢な溺愛~純真秘書の正しい可愛がり方~
言われて壁の時計を見上げると、かれこれ一時間半は過ぎている。
「そうかもしれないですね……」
雪成は屋敷中の人間と顔見知りのようで、彼が菜穂を抱いて歩いているのを見て、驚きと喜びに似た表情を浮かべていた。
その雪成個人が歓迎されている雰囲気に、美月の胸はざわついた。
(そういえば雪成さん、慣れた感じだった……。昔からそうやって、菜穂さんの側にいて、彼女を支えていたんだろうか。だけど菜穂さんは、そんな雪成さんと別れて、自分の夢を追いかけて……。でも戻ってきたら、当然のように大事にされて……。)
チリチリと胸が焦げる。
この瞬間、美月は菜穂を羨ましいとさえ感じていた。
そして同時に、そんな自分の感情に、言いようのない嫌悪感がこみ上げてくる。
(私、最低だ……。菜穂さんは望んで倒れたわけじゃないのに……!)