御曹司による贅沢な溺愛~純真秘書の正しい可愛がり方~

(今、話してくれたら……キスしたことは無理でも、せめて菜穂さんが元カノだってこと、話してくれたら……。そうしたら……私も、勇気を出せるかもしれないのに……。)


 だが雪成には、菜穂のことを話す気は無さそうだった。
 そのままフッと笑って、今度は頬を撫で顔を近づけてくる。


(キス……。私ともするの?)


 美月は奥歯を噛みしめる。


“優しくしてやる、甘やかしてやる、夢を見せてやる。”


 雪成は最初から何度もそう言っていた。

 そして美月はその甘い誘惑に身を任せてきた。それで辛さが紛れたからだ。


 だが今はどうだろう。
 こうやって、意味もなく優しくされる方が、ずっと辛い。


 美月の脳裏に、クルーザーの二階にいた雪成と菜穂の姿がフラッシュバックする。


(あれは私とは違う、対等なキス……。)


 羨ましくて、涙が出そうだった。


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