御曹司による贅沢な溺愛~純真秘書の正しい可愛がり方~
失恋秘書、故郷に戻る
ジュッ……。
なんの前触れもなく煙草に火がつく音がして、森田美月(もりたみつき)は書類整理をしていたデスクから顔を上げた。
窓際で立ち上がる紫煙に目をみはる。
「あっ……!」
小さく叫び声を上げ、デスクの引き出しから十センチほどのガラスの小皿を取り出し、窓辺の男のもとに走った。
「副社長、灰皿使ってください!」
江戸時代から続く老舗寝具メーカー【KOTAKA】本社最上階の重役フロアにある副社長室で、美月は目くじらをたてながら、目の前の長身の男を見上げた。
ヒールを履いた百六十センチの美月よりさらに背が高い、見上げるほどの長身を贅沢な生地のスーツで包んだ、眉目秀麗な美形だ。
「……ん?」
切れ長の漆黒の瞳に見つめ返されると、そんなつもりがなくとも、ドキリとしてしまう。
「だから……灰が落ちますから」