御曹司による贅沢な溺愛~純真秘書の正しい可愛がり方~

 滉一に振られたあの夜、美月は何も言えなかった。
 ただ、心変わりされるような自分が悪いのだと、自分を責めて、消えて無くなりたいとさえ思った。
 そして差し伸ばされた手にすがり、結果的にこんな遠回りをしているのである。


「……っ、私、好きな人がいる」


 美月はしゃくりあげながら、それでも目に力を込めて、滉一を見上げた。


「美月……」


 滉一は気圧されたように唇をかむ。


「死にたかったけど、死ななかった。死なずに生きて、そして恋をした。だから何度傷ついたっていい。その度に立ち直って、時間がかかっても、あとずさっても、回り道しても、前に一歩、進めたらいい」


 唐突に、脳裏に雪成の横顔が浮かんだ。

 副社長室でタバコをくわえた、慌ててガラスの小皿を持って駆け寄る美月を見て、眼を細める雪成の顔である。


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