御曹司による贅沢な溺愛~純真秘書の正しい可愛がり方~
一瞬だけ見せるいたずらっ子のような顔が好きだった。
彼に小さな世話を焼いて、構われるのが楽しかった。
だから本当は、ちゃんと傷ついて、自分で失恋を消化して、そしてまた新しい気持ちで、雪成に恋をするべきだったのだ。
結果的には、同じだったかもしれないけれど、ずっとそのほうが自分らしくいられただろうと、美月は思う。
だから美月は、叫んでいた。
「でもっ……でもっ、どうして、ちゃんと、振ってくれなかったのっ……⁉︎」
手を振り上げて、滉一の胸を叩く。
「滉一くんの、ばかっ……!」
トスン、トスンと何度か彼の胸を叩く。
別れた後で文句を言っても、彼を殴っても、仕方ない。そんなことはわかっている。
けれどこれは、きっと美月にも、滉一にも必要な儀式だった。
「バカッ……ううっ……ううーっ……」
美月は滉一のシャツを掴んだまま、ずるずるとその場に崩れ落ちる。
「美月っ……ごめんっ……ごめん、本当に、ごめん!」
滉一は目にうっすらと涙を浮かべて、美月の体を抱き起こした。