御曹司による贅沢な溺愛~純真秘書の正しい可愛がり方~
その次の瞬間。
「いつ俺がお前を振った!」
部屋の空気が震えるほどの大きな声だった。
「……遅いよ」
真顔をなったハジメがゆっくりと手を離し、足を引き、入り口を振り返る。
「え……?」
美月はハジメの視線を追い、呆然とした。
なぜかそこに、スーツ姿の雪成が立っていた。
手にはスマホを持っていて、どこから走ってきたのか、髪は乱れ、肩で息をしている。
(幻聴……アンド、幻覚……。)
力が抜け、美月はそのままずるずると壁を背にして床に座り込んでしまった。
「なかなか来ないから、あやうくノリでチューするところだったよ……」
ハジメがわざとらしく額の汗を手の甲で拭う仕草をすると、幻覚であるはずの雪成が、苦虫を噛み潰したような不機嫌な顔で、二人に近づいてきた。
「ハジメ、なんなんだ、お前はっ!」
「なんなんだって……感謝されてもいいくらいだけどー? ね、みっちゃん。ほら、立って」
ハジメはクスッと笑って、床にぺたりと座り込んだ美月に手を差し出す。
「触るな!」
その手を血相を変えた雪成が叩き、美月を抱き起こした。