御曹司による贅沢な溺愛~純真秘書の正しい可愛がり方~
ぎゅっと抱きしめられて余計に混乱したが、自分を抱きしめる腕の強さや、雪成の香水の香りに、美月はようやくこれは現実かもしれないと思い始めた。
(幻覚じゃないの……?)
「あ、あの、えっ、本物……ですか?」
我ながら馬鹿な問いかけだとは思った。だが聞かずにはいられなかったのだ。
「……本物だ」
雪成は真面目に答えると、それから美月の手を掴んで、問答無用で執務室から出て行こうとする。
その背中にハジメが間髪入れずに叫ぶ。
「借りひとつだからね!」
「わかってる!」
「ふふっ。ならいいけど」
苛立ったような雪成に、現実についていけていない美月だが、ハジメだけはこうなるということがわかっているかのようだった。
執務室を出て、階段を駆け下り、そのまま離れのヴィラへと向かう。
二人の関係の全ての始まりである、あのヴィラだった。
カードキーで部屋の中に入ると、床にはスーツケースとその中身らしい荷物が散らかっていた。
テーブルの上には仕事で使うパソコンや資料が置いてある。