御曹司による贅沢な溺愛~純真秘書の正しい可愛がり方~
それから雪成は、半年の間に二回、あの街で“彼女”に会った。
会ったというのは正確ではないが、とりあえず会ったと、雪成は認識することにしている。
二度目は秋の気配が漂い始めた頃だ。
借りた傘はまだ返していなかった。
彼女の言う通り、商工会議所に預ければいいのだが、それでは繋がりがなくなってしまう。
直接返すのであれば、その分彼女と向き合える時間ができる。
どうしても彼女の目を見て話がしたい。
会えたら傘のお礼を言い、そして押し付つけがましくない態度で自分の名刺を渡し、お礼と称して食事にでも誘えたらと、考えていた。
(彼女には決まった男がいる。だか、ハジメの言うように“別れるかもしれない”。期待するわけではないが……いや、期待してるな。)
だがそんな雪成の期待はあっけなく消えてしまう。
商工会議所で会議を終え、取引先に向かった雪成が、会議中の担当者を、一階ロビーのソファーで待っていたときのことである。