御曹司による贅沢な溺愛~純真秘書の正しい可愛がり方~
「……いえ」
ここに、という声が少し意味深に聞こえた。
(もしかして見られてた? だからそんなことを聞くの?)
職場の上司にこんな場面を見られることを想定していなかった美月だが、今は自分の足で立っているのが精一杯な状況だ。
(この場を離れられるなら、なんでもいい……。)
滉一に背中を向け、なんとかギリギリこぼさずに済んだ涙を指先でぬぐうと、その手首を雪成につかまれ、引きずられるように会場を出て行く。
背後から滉一に名前を呼ばれたような気がしたが、正気を保つために、心を閉ざしてその場を逃げるしかなかった。
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