ラブジャンプ!
アパートの前まで近づくと、私たちの部屋へ上がる階段のあたりに
大家さんが手を振っていた。
「杏ちゃん、桃ちゃん おかえり~」
「大家のじっちゃん、ただいま」
大家さんと杏がハイタッチで挨拶を交わす。
「杏ちゃん、悪いが桃ちゃんと大事な話があるから、お部屋で待っててくれるか?」
ちゃんと、杏の目の位置まで視線を合わせ、杏に話す大家さん。
「うん、いいぞ。あ、また家賃引き落とされてなかったのか?!
じっちゃん、ごめんよ、桃子にちゃんと言っとくからな!」
そう言ってと、階段を駆け上がっていく。
「あの…家賃…残高不足だったのかも…すみません、明日振込…」
「あ、いや、違うんだよ桃ちゃん…」
一変して申し訳なさそうに眉を下げる大家さんの口から、思いもよらぬことを聞かされた。
「マ、マジ…です…か…??」
ど、ど、ど、どうしよう…。
大家さん曰く…。
1週間後に、市の区画整理により私たちの住むアパートが取り壊されるそうだ。
当初は、このアパートは予定になかったが、ある市議の圧力により強引に決められてしまったそうだ。
ギリギリまで大家さんも反対して力を尽くしたが、市議の力には勝てなかったそうだ。
「桃ちゃんたち、長い間住んでくれたのにゴメンよ、僕の力及ばずでね…」
「いえ…仕方ないですよね…」
杏が生まれてすぐに入居したアパートだから離れるとなるととても淋しい。
大家さんと奥さんにもいろいろと助けてもらったから、なくなるなんて残念だ。
「引っ越すときは、手伝うから、連絡してくれよ、じゃぁ。」
私の肩をポンと叩き、大家さんは去って行った。
あぁ…これから、どうしよう…。