ラブジャンプ!
月末が近い今日、持参したお弁当を早めに社食で食べ終える。
同じ課の営業の霧島結菜(キリシマ ユウナ)も、取引先へ出掛けるからと私と一緒に社食でお昼を過ごした。
去年、ヘッドハンティングで中途入社した彼女と妙に気が合いプライベートでも交流がある。
ちなみに彼女は29歳独身彼氏は今はいない。
お昼の時間、昨日大家さんから伝えられたことを結菜に零すと、
結菜が昔お世話になった不動産屋さんを紹介してくれる、という。
「ホントにいいの?!めっちゃ助かる!」
「うん、今日、不動産さんに電話しておきますから。
不動産さんの連絡先あとでメールしますねっ!じゃ、行ってきまーす」
社食を出て、ちょうど開いたエレベーターに足早に乗り込んだ結菜。
扉が閉まるまで、お互い手を振って午後の仕事の健闘を祈った。
上へ上がるエレベーターを待って、
3つあるうち一番左のエレベーターが到着音を鳴らしたので扉の前まで行った。
扉が開くと、見知った顔が目に飛び込んだ。
「お! やぁ、桃ちゃん!」
私の姿を捉えたその男性は、私の肩をばんばんと叩く。
「い、痛いょ、おじ…、あ、しゃ、社長…」
そう、この恰幅のいい陽気な男性は、
私の叔父、母の弟の水嶋陽一郎。
そう、この水嶋製菓の社長である。
「そういや、桃ちゃん、百合子から聞いたぞ、アパート追い出されるんだって?」
げ、お母さんたら、もう情報漏えい…。もう何も言わないでおこう。
「ちょっ! おじ…、社長!プライベートなことおっきな声で言わないで下さい!」
叔父さんの腕を掴み、社食と反対側の廊下へと引っ張っていく。
「あ、専務、先に行っててくれ」
一緒に来ていた専務は、片手をあげヒラヒラとさせると社食へと向かった。
「おじさん、私がおじさんの姪だってこと知ってる人限られてるんだから、あんまり社内で話しかけちゃダメだよっ」
「え? なんで? だってホントのことだから別にいいんじゃない? 僕は構わないけど~」
「おじさんは構わなくっても私が構うのっ!お願いね!」
会社というのは、いろいろあることないこと言うヤツがいるからね、
予防線しとかないと。
おじさんに言い聞かせて、その場を去ろうとすると、
「あ、桃ちゃん」
だーかーらー、もーこのオヤジったら!!
「次に住むアパート決まったの? もし、まだだったらいいところあるんだけど。」
振り向く私におじさんは、ニヤリと左口角を上げた。