病床のキス【短編】
 同じパソコンの画面を覗く。
 先輩の顔が近づいて、妙に心臓が高鳴った。
「どれどれ…」

 吐息が揺れて耳元にかかるたびに、擽ったいような切なさが込み上げる。

 ああ、久しぶり。2人だけの空間だ…

 彼女が来る前、こんな風によく教えてもらった。その度に私は今のようにドキドキしてたっけ……

「うん、分かった。ありがと」

彼がサッと顔を離した。

 あ~あ、終わっちゃった。一瞬の既視感、白昼夢。



 買ってきた花を棚に飾り、果物籠のリンゴを剥きながら、パソコンに向かう彼をそっと盗み見る。

 彼にはいくつもの顔がある。

 いつも冗談ばかり言ってるムードメーカーの彼、新人教育するときの厳しくって優しい彼。

 でもね、私が惹かれてやまないのは。

 そう、今のようにギュッと眉に皺を寄せ、真剣に設計に取り組む横顔。

 長い睫毛、高い鼻梁、流した髪を無意識に手櫛でとく仕草…


 と、その時ふいに窓からオレンジの西日が差した。

「相田……悪いけど、カーテン閉めてくれる?」

 そう、そしてーー
 
 黄昏時の今一瞬。

 画面を見つめたまま、眩しそうに顔をしかめた彼。
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