病床のキス【短編】
「相田?」
「あ、す、スミマセン」

 私ってば、何て気が効かない。つい見とれてて気付かないなんて……
 画面が見にくかったんだ。
 
 慌てて立ち上がり、4人部屋の病室の仕切りカーテンを閉めた。

 不意に出現した二人きりの空間に、疚しく心臓が高鳴り始める。

 彼はチラリとこちらを一瞥し、
「ちょっと休憩」

起こしたベッドの背に凭れかけた。

「あ、あの!リンゴ、良かったら…」
「ああ、ありがと」

「ご免なさい…ホントは水無月サンが行きたいって言ってたんだけど……課長が…」

シドロモドロに言い訳をする。

「へぇ…気ぃ使ってくれたんだ…」
「へ?」

「あ、イヤ。
 それより相田、髪切った?」
「は、ハイ…」

「もしかして…失恋したとか?」
「う……そ、そういうわけじゃ…」

 やっぱり、バレバレなんだろうか。
 彼はじっと見つめたままでいる。

「…実は…そうです」

 消え入るような声で返答。

 むっちゃ退かれるかな、
 でもまあいいや、今更だ。

 貴方に失恋したんですよ~だ。


「そっかぁ」
 心持ち嬉しそうにリンゴをかじった。
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