空の青はどこまでも蒼く
「石田。これを営業部に届けてくれ。」


課長から差し出された資料は、今度の企画書。
入社6年目の私のすることではなかったが、新入社員達が研修で席を外していたので、仕方なく営業部を目指すことした。


仕方なく?
否、違う。

営業部に行って、山野君に会って、どうして連絡が途絶えたのか?問質したかった。

本当はそんなこと、しようとは思ってはいなかった。

そこにあの張り付けたような笑顔を振り捲いている山野君に、凛とした姿を見せたかった。

貴方から連絡がなくったって、私は何も感じてないのよ、と知らしめたかった。


背筋を伸ばし、私は営業部を目指した。




広い営業部のオフィス、辺りを見渡せど、山野君の姿はない。

営業部の部長の席を目指し、歩き進む。

どこを見ても、その姿は見えず、山野君の存在すら疑い始めたその時、営業部の女子社員の声が耳に届いた。


「今日じゃない?山野君、帰って来るの。」


帰って来る?
どういうこと?
彼はどこかに行っていたんだろうか?


社員の動向を示すホワイトボードに目を移す。


≪山野:長野へ出張≫


日付は私が彼に会った最後の日から。
道理で彼に会わないはずだ。

けど、連絡がないのはどうしてだろう?

あれほどまで積極的に言い寄って来た彼が、この1週間、出張に行ってるとは言え、連絡を寄こさないのもおかしい。

やはり揶揄われていただけなんだろうか?


営業部を後にしようと、ドアを開け、廊下を後手にし、営業部のオフィスにお辞儀しようとした刹那、背後に気配を感じた。


「どうしたんです?俺に会いに来てくれたんですか?」


1週間待ち続けた、その声が私の耳に届いた。




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