空の青はどこまでも蒼く
「届け物よ、届け物。」


何も気取られないように答える。
貴方を待ってたの、なんて気取られてはいけない。
振り返り、その顔を見ず、横を通り過ぎる。


「俺はこの1週間、会えずに淋しかったですよ。」
「よく言うわ。連絡も寄こさないで。」


つい本音が出た。
言ってしまっては後の祭り。
どうしようもない。


もう、その場を後にしようと、一歩踏む出したところで、腕を掴まれる。



「きゃっ!」
「逃げんなよ。」



低い声、耳元で囁かれた。
偶にこうやって馴れ馴れしく近づいて来る山野君に戸惑いを隠せない。


腕を離され、態勢を持ち直し、何事もなかったように答える。


「逃げてないわよ。」
「じゃ、今晩、呑みに行きましょうよ。」


瞬時にいつもの山野君に戻る。
その表裏に心は掻き乱され、虜にされる。


「行かないわよ。どうして山野君と呑みに行かなきゃならないの?」
「嫌なんですか?俺と呑みに行くの。」


まただ。
きっと、この子の戦法なんだと思う。
誰だって、嫌だと聞かれて、嫌だとはっきりとは答えられない。
そこを、この子は突いて来ている。


「嫌じゃないけど、呑みになんか行かなっ「じゃ、決まりですね!後で、連絡します。俺、部長に今から報告に行かなきゃならないんで。」


私の話を遮り、強引に約束を取り付ける。
いくらでも断ることは出来ても、それをしない私が居る。
山野君は踵を翻し、オフィスに入って行った。


この1週間、何の連絡も寄こさず、会った途端にいつもと変わらぬ態度で接する。
あの強引さが嫌なわけではないが、彼に翻弄されている自分が嫌になる。





後で連絡すると言われ、それから携帯が気になって仕方がない。
いつもはポケットの中に仕舞っている携帯を机の上に出して、チラチラと何度も見る。
何を期待しているんだ?
大きく溜息を吐いた。


「何溜め息吐いてんだよ?」
「あぁ、祐亮。何でもないわよ。ねぇ、祐亮さ、好きな子出来たら、祐亮ならどうする?」


自分でもびっくりした。
急に何を聞いているんだ。


「何だよ?何でそんなこと聞くんだよ?」
「別に。どうするのかなって思っただけだから。忘れて。」
「何なんだよ。なぁ、ちょっと、休憩しようぜ。」




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