空の青はどこまでも蒼く
部屋を出る彼の後を追うことが出来なかった。
彼が『帰る』と言った時の、あの顔が忘れられない。


いつもは張り付けた笑顔しか見せないのに、あの時は悲しみに満ち、絶望を隠せていなかった。
絶望の淵に立たされて、それでいて自らを悲しみの底に置いているようなあの顔。


そんな顔にさせたのは、もちろんこの私なんだけど。
けど、その理由が、私にはわからなかった。





次の日、いつもならお昼の休憩には必ず顔を出す山野君が、企画部に来なかった。
一人、社員食堂に行こうと、廊下を歩いていれば、目の前を山野君が同僚と歩いて来た。



話し掛けようと、足を踏み出した瞬間、彼は私を一切見ず、私の横を過ぎ去った。





【山野と石田が別れた】



そんな噂は付き合ったと言われた時より早く駆け巡った。
実際、私達は付き合ってはいなかったのだから、別れるもなにもない。
ただ、彼が私に付き纏わなくなっただけ。
ただそれだけ。



何が間違っていたんだろう?
何が私達の歯車を狂わせたんだろう?
私の記憶の断片がどこかで途絶えているんだろうか?
山野君との過去の記憶だけが剝ぎ取られているんだろうか?


考えても考えても私の記憶の中に彼はいない。



エレベーターで初めて乗り合わせたあの瞬間、私は山野君に恋してた。
彼に振られた次の日だとう言うのに、彼に心奪われていた。


俯き加減に入って来た彼の顔はよく見えはしなかったけど、あの時、彼に私は懐かしさと親近感を覚えた。


それからの彼はどんどんどんどん私の中に侵蝕し、私の心を持って行った。
けど、4つも年上の私は、何一つ彼に素直になれなかった。
そのことで彼が離れて行ったわけではない。


私が彼のことを覚えていないことが、私から彼が離れて行った一番の原因だと思う。


私の手から彼が零れ落ちて初めて気付いた。


私は彼に溺れてる。
私は彼を愛してる・・・・・

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