空の青はどこまでも蒼く
5日後、退院した。
点滴で栄養を取り、規則正しい生活をすれば、5日もあれば身体は健康を取り戻した。
そう、身体は・・・・・





倒れたあの日、何週間も食べてなかったこともあったけど、倒れたのには理由(わけ)がある。


山野君と話しすらしなくなって、1週間。
同じ会社なんだから、顔を合わす機会もあった。
私の心は彼を欲し、彼を欲しいと叫んでた。


こんなにも遠い存在だったんだろうか?
駆け出せば、その背中に追い付いて、以前のように、こちらを振り向かず、「石田さん」って、言ってくれるんじゃないかって。


けど、それはもう2度とないことなんだって思い知らされた。
そうあの日。



お昼を食べない私は、いつも昼休憩、屋上に行った。
空の青さを見れば、心が落ち着いた。
どこまでも、どこまでの続くその青さに。


有希は少しでも一緒に食べようと、いつも誘ってくれたけど、その誘いも断って、私は一人屋上で空を眺めてた。
青い空を見ていれば、軋んだ心が、波立った神経が、落ち着いて行くような気がした。


ベンチに腰掛け、空を眺めていれば、少し遠くで、聞きなれた声が聞こえた。
ゆっくりと視線をそちらの方へ向ければ、そこには私の知らない山野君が立って居た。


初めてエレベーターで会った時のように、私に背を向け、けど、彼の目の前には、私の知らない女が立ってた。
山野君と話すその女性は、山野君が何か言うたび、嬉しそうに頷き、頬を染め、山野君へと手を伸ばした。


その光景に胸が軋む・・・瞳が揺れる・・・唇が震える・・・


きっと、数週間前にはその位置に私が居た。
あの子のように可愛らしくは振る舞えてはいなかっただろうけど、確かに私はあの位置に居た。


彼女が私に気付き、挑発的な視線を送って来る。
その視線に耐え切れなくなり、私は顔を逸らした。


その瞬間、彼女の笑い声が聞こえて、二人は屋上から姿を消した。
山野君は気付いていたんだろうか?
私が背後に居ることを、気付いていて、知らない振りをしていたんだろうか?



私の心は限界に来ていた。
少し暑くなった日差しに、何も食べてない胃痛に、彼を失った精神に、私は耐え切れなくなった。



有希の姿が見えたその瞬間、私の意識は途絶えた。


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