永すぎた春に終止符を
彼は、こっちへ戻ってくると、
「牧山さん?」
「はい」
安田さんは、
「じゃあ、行こうか」
といって、あらかじめ約束してたみたいにいう。
「行こうかって…どこに?」
私は、そう言われてキョトンとしてる。
「もう少し付き合ってよ」
安田さんは、事の成り行きを見守ってた幾美さんを呼び止めて、
俺らは、一次会で帰りますからと断ってしまった。
安田さんは、私の腕に自分の腕を絡めてきた。
「場所を変えましょう」
梨沙だけに聞こえるようにというと、幾美さんに挨拶する。
手を振りながら、改札を抜け、電車でターミナル駅まで出た。
「ああ、やっと抜けられた」
やれやれと、彼はネクタイを緩めるしぐさをする。
「囲まれてましたね」
「笑い事じゃないよ。ああなるから、部署の飲み会には参加しなかったんだ。それなのに、目当ての誰かさんは、どこかに行ってしまうし」
「私だって、囲まれるなんて嫌ですから」
「誰だってそうだ。女の子ってああいうことすると、逆効果だって思わないのかな」
「さあ、女の子の方は、とにかく話さないとって思いますよ。普段、仕事で接点無いですから」
「じゃあ、分かってくれるかな?今の俺もそうなんだけど」
彼は、店の前で立ち止まった。
遅くまでやってるし、この店でいいかなと、梨沙に同意を求める。
もう、帰りますって言いかけて、気配を察知したのか保田さんは、梨沙が帰るっていう前に肩を抱いて私を店の中に入らせた。
「お酒飲んでないでしょ?だったら付き合わなきゃ」
席に案内されてすぐ、安田さんは、何も聞かずにビールを注文した。
「はい、でも、私もう十分ですから」
パスタを食べてたときのイメージと違う。
いったいどうしたのだというほど。
「そう言わないで、付き合ってよ。少し打ち解けてもらわないこっちも話しにくいから」
「えっと、じゃあ。ビールを少しだけ」